「日本」は「にっぽん」か「にほん」か?

「日本」の読み方は「にっぽん」と「にほん」、どちらが正しいのだろう?
結果から言えば、どちらでも良い。というか法律等で明確に規定されていないのだ。


いちおう、政府は対外的には「NIPPON」で通している。お札もそうだし、スポーツ等でも「NIPPON」と表記されている。(ま、最近は「○○ジャパン」という言い方の方が多いけどれ。「星野ジャパン」とか「マーメイド・ジャパン」とか…)


そもそも、日本語は他の言語と違ってきわめてビジュアル性の高い言語だといわれている。(もちろんビジュアルと言っても、「見た目が綺麗」という意味ではありません)
言語活動をする時に日本人は無意識のうちに頭の中で漢字を思い浮かべているらしいのだ。


いわゆる「大和言葉」が成熟しきる前に、中国文化の洗礼を受けた結果、高度に概念的な単語のほとんどに漢語を使うようになってしまった。幕末から明治維新後に西洋文化を受け入れた時も新しい概念を翻訳するのに漢語を使用した。
だから、われわれはちょっと難しい話をする場合、漢語を使用せずに語ることはできないのだ。
「政治」「宗教」「経済」「自由」「民主」「科学」「文化」…
これらの単語は全て漢語である。そして「音読み」。
「音読み」ということは、元々は中国語の発音に由来する、ということだ。
しかし、日本語は中国語のように声調で発音を区別しないから、いきおい同音異義語のオンパレードになる。


「意思」と「石」と「医師」と「遺志」を、われわれは話の内容や前後関係でしか区別できない。(中国語ならみな発音は異なるところだが)
これが文章ならば漢字を見ただけで了解できる。話し言葉では、音を認識した後、話のコンテキストを理解しながら「漢字」を頭の中で思い浮かべて、より深い理解を得ているらしい。


ところが、厄介なことに日本語の漢字の発音は複数あることが多く、発音の仕方によって意味やニュアンスが若干違ってくることもある。
「市場」と書いても「いちば」と「しじょう」では、規模感と言うかニュアンスが異なっている。


「日本」もそんな言葉の一つである。
個人的な感覚としては、「にっぽん」は元気が出る、威勢がいい、といった感じがある。それに比べて「にほん」の方はやさしい感じがする。スポーツの応援などはどうしても「ニッポン、チャチャチャ」の方が力が入る。「ニホン」では歯切れが悪く応援しづらい。
「にっぽんじん」と発音すると、どこかしら堅苦しい、姿勢を正す、ような感じがあるが、「にほんじん」と発音すると、普通の、力の抜けた感じがする。
そんな風にうまい具合に「日本」の読み方を使い分けているわれわれは、あまり読み方にはこだわらないようだ。
しかし、自分の国の名前の読み方が一定していない、というのは他の国からすると、どうなのだろうか?


ところで、日本語は助数詞が非常に発達している言葉であるとも言われる。
助数詞とは、一個、二個の「個」とか、一枚、二枚の「枚」などである。中国語にも量詞という種類の言葉がある。韓国語にもある。
ヨーロッパの言語は単数と複数(古代ギリシャ語等には双数というカテゴリーがあるが、こことでは触れない)の二つに世界を分けるが、東アジアの言語は単数・複数の区別をしない代わりに、物の性質を示す助数詞(もしくは量詞)を付けて言葉を豊かにして来た。


日本語で、細長いものを数える時の助数詞は「本」である。
「一本」「二本」「三本」と数える時、面白い発音をする。そう、「いっぽん」「にほん」「さんぽん」、と言うように、「ポン」「ホン」「ボン」と変化するのである。
われわれ日本人にとっては別にどうと言うことはないが、よく考えてみると、漢字もカナも知らない外国人(欧米の人)にローマ字でこれらを教える際に、彼らはどう理解するのだろうか?といささか心配になってしまう。
「IPPON」「NIHON」「SANBON」と発音はできるが、ローマ字で見ると規則性が良く見えない。「1:ICHI」と「HON」と結びつく時、音便で「HON」が「PON」に変化し、「3:SAN」の時には「BON」になるなんて、単数・複数の区別より複雑な言語に見えてしまうかもしれない。
「一遍」「二編」「三遍」も同じだ。H⇒P、H⇒Bの音便である。


でも「日本」を「にっぽん」と読むか、「にほん」と読むかは一定していない。
助数詞じゃないからだ。
「日」の「にち」という音が促音便で「にっ」となり「ぽん」が導かれるのが本来の形なのかも知れない。「日」を「に」とは普通読まないから。


ただ、個人的には、どこか愛国心を強要される感じのする「ニッポン」より「ニホン」の方が好きだ。
あるいは、いっそのこと大和言葉で「ひのもと」と読ませてみてはどうだろう。
(やっぱりダメか)

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