陸上界に怪物現る:桐生祥秀

安岡久遠のブログより引用。

"安岡久遠ブログ"

『陸上界に怪物現る:桐生祥秀

陸上・日本グランプリシリーズ第3戦:織田幹雄記念国際陸上競技大会兼世界選手権代表選考会において、京都・洛南高3年、17歳の桐生祥秀が日本歴代2位、ジュニア世界タイ記録の10秒01をたたき出しました。

追い風0・9mの予選で、自己記録を0秒18も更新し、98年のアジア大会伊東浩司氏が樹立した日本記録10秒00に0秒01差に迫まりました。今季世界最高の快記録で、8月にモスクワで開催される世界選手権の派遣設定記録もクリアし、決勝は追い風参考ながらも10秒03で優勝しました。

桐生君の凄いのは、現在世界ナンバー1スプリンターのウサイン・ボルトの同年齢の記録ばかりか、20歳時点での記録も上回っていることです。ボルトは、17歳時は10秒09、20歳時は10秒03です。ちなみに、日本記録の10秒00をマークしたときの伊東浩司は28歳、10秒02をマークした朝原宣治は29歳ですから、いかに桐生の将来性が期待できるかというものです。

もっとも、早熟、晩成ということもありますので、単純な比較は意味がないことはわかっていますが、それにしても凄いスーパー高校生が現れたものです。日本人、いやアジア人初の9秒台が見えてきました。

この日、10秒01をマークした予選は、追い風0.9mだったそうです。追い風は0.1mで0.01秒早くなるということですから、もしこのとき追い風が1.9mであれば、9秒91をマークしたかもしれないのです。これまた参考までですが、伊東浩司のときは
追い風1.9m、朝原のときは同2.0mだったそうですから、この桐生君の記録が素晴らしいかがわかるというものでしょう。

もっとも、逆に桐生君がアジア人初の9秒台をマークか・・・・というのにも異論がありまして、実は伊東浩司は実質的に9秒台を出していたのです。というのは、10秒00を出したアジア大会でのレースは準決勝だったので、決勝に余力を残しておくため、ゴール前で流したのです。私はそのレースを見ていましたが、間違いなく走りを緩めていました。

もし、彼がそのまま力を抜かなかったら、間違いなく9秒台は出ていました。伊東自身もタイムが10秒00だったと知って、力を抜いたことを後悔したそうです。

さて、話は少し変わりますが、よく日本人は韓国人選手と比較して身体能力に劣ると思われていますが、それは明らかな誤解です。野球やサッカーにおいて韓国人選手は身体が大きくパワフルなので、無知な解説、評論家、TVタレントたちが、身体能力と体格差を混同してそのように表現するのですが、実は身体能力は日本人の方が圧倒しているのです。


興味深いデータがあります。身体能力が最も端的に現れる陸上の記録です。

      日本     韓国     日本Junior記録
100m   10.00     10.23     10.01
200m  20.03     20.41     20.29
400m 44.78     45.37     45.18
800m 1.46.16   1.44.14    1.47.13
1500m 3.37.42  3.38.60   3.38.49
5000m 13.13.20 13.50.35 13.31.72
10km 27.35.09 28.30.54 27.59.32
110mH 13.39 13.71 13.88
400mH 47.89 49.80 49.09
400mR 38.03 39.43 39.01
1600mR 3.00.76 3.04.44 3.05.33

これを見れば、韓国は日本のジュニアの記録より劣っていることがわかるでしょう。韓国の方は最新の記録に更新されていないのもあるかもしれませんが、それにしても日本のジュニアレベルであることに変わりはないでしょう。


ただ、これを単純に身体能力の差だとも言い切れない事情が韓国側にはあります。韓国は日本の5倍とも10倍とも言われる五輪対策費を、陸上や競泳といったメジャーで、競技人口が多く、黒人や白人に比して身体能力が劣り、メダルの可能性が非常に低い競技には投資せず、その大半をアーチェリーや射撃といった身体能力があまり関係なく、競技人口も少ない種目、またはお家芸のテコンドーなどに費やします。

つまり、メダルであれば陸上の男子100mでもアーチェリーでも同じ価値だという考えなのです。日本では五輪開催中、各国別の金メダル数が発表されますが、種目までは記載されません。

韓国においては、サッカーのしろ野球にしろ五輪にしろ、世界大会は依然として国威発揚のばでしかないのです。ですから、メダルの数にに固執し、獲得でできる種目にターゲットを絞って集中投資をするのです。その点で、即効で目に見える成果が得られなくても、地道に努力を積み重ねる日本人とは異なります。

もっとも、韓国にはそうならざるを得ない理由があります。メダル、とくに金メダルを獲ると種目に関係なく、一生涯年金が支給されるのです。種目に関係がないとなれば、選手側が獲りやすい種目を選択するのも無理のないことなのかもしれません。

ともあれ、日本には陸上といい、競泳といい、サッカー、野球といい、十代の素晴らしく可能性を秘めた選手が出現したものです。